目次
この分野について
外食業は、つい数年前まで外国人を「育てて受け入れる」ことができなかった分野です。技能実習は、一部の給食施設等を除いてほぼ対象外。体系的に外国人を受け入れる仕組みが、そもそも存在しませんでした。それが2019年の特定技能で一気に開き、2027年4月施行の育成就労でも新たに対象に入る見込みです。長く閉じていた扉が、初めて「育てながら受け入れる」側に開く——外食にとって、ここ数十年で最大級の転換点です。
仕事は大きく3つ。調理(仕込み・加熱・盛り付け)、接客(注文・配膳・会計・クレーム対応)、店舗管理(発注・在庫・衛生・シフト)。飲食料品製造業と重なる部分はありますが、決定的な違いは「客と直接向き合う」こと。ここが日本語とコミュニケーションの要求水準を一段引き上げます。工場の製造ラインと同じ感覚で採ると、まずここでつまずきます。
人手不足の深刻さは、もはや説明不要でしょう。長時間労働と不規則シフトのイメージで国内人材は集まらず、コロナ後の大量離職で傷口はさらに広がった。だから外国人材への期待は大きい。ただし——「人が足りないから採る」だけで始めた店は、ほぼ例外なく立ち上がりでつまずきます。差がつくのは採る理由ではなく、受け入れる準備のほうです。
現状データ
【2026年4月時点の重要な注意】外食業の特定技能1号は、新規の受入れ(海外からのCOE交付申請・国内からの在留資格変更申請とも)が原則一時停止されています。
外食業分野は特定技能1号の在留者数が受入れの上限(受入れ見込数。2024〜2028年度の5年間で5万人)に達する見込みとなり、2026年4月13日以降に受理された在留資格認定証明書(COE)交付申請および在留資格変更許可申請を原則不交付・不許可とする一時停止措置がとられています(出入国在留管理庁・農林水産省)。外食業特定技能1号の技能測定試験も、当面の間は国内外ともに実施が停止されています。
ただし全面的な停止ではありません。すでに外食業の特定技能1号で在留している方の転職等にともなう変更申請、特定活動(特定技能1号移行準備)の許可を受けている方、技能実習(医療・福祉施設給食製造作業)を修了して移行する方は、引き続き審査のうえ受入れが可能です。海外から新たに採用する場合は、措置の最新状況を出入国在留管理庁の公表で必ずご確認ください。
数字を見れば、伸びの速さは一目瞭然です。
- 技能実習:なし(対象外) — 一部の給食施設等を除き、外食は技能実習の対象職種ではありませんでした。建設や製造のような「何十年分の受入れ実績」は、この業界に存在しません。スタートは全員ゼロからです。
- 特定技能1号「外食業」:43,869人(出入国在留管理庁、令和7年12月末・速報値) — 前年同期の13,312人から約108%増。特定技能の全分野でも屈指の伸びです。特定技能全体390,296人の約11%を外食が占めます。インバウンド回復と国内需要が重なり、採用ニーズが一気に跳ねました。
- 特定技能2号「外食業」:1,056人(令和7年12月末・速報値) — 2023年に2号の対象が広がり、外食でも2号へ進む人が出ています。数はまだ少ない。それでも「外食で在留の上限なしまで行ける」と実例で証明された意味は小さくありません。
送り出し国の中心はベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー。ベトナムは特定技能全体でも最大の送出国で、外食でも最多層を占めます。
今後の受入れ見込み
- 育成就労の受入れ見込み(5年で上限):5,300人 — 技能実習ではほぼ対象外だった外食に、育成就労で正式な枠がつきました。人手不足を受けて、政府が「育てて受け入れていい分野」と認めた証です。
- 特定技能1号 — 2024年12月末で27,759人が在留。ただし前述のとおり、新規受入れは2026年4月から原則停止中です。当面の受入れは、在留中の方の転職や特定活動からの移行など、上記の例外的なルートに限られます。「海外から好きなだけ採れる」前提で立てた計画は、足元で必ず崩れます。
- 政府が想定するタイムライン:
- 2027年4月:育成就労の施行。外食でも育成就労による新規受入れが始まる見込み
- 2027〜2030年:育成就労で入国した人が、最長3年の育成を経て特定技能1号へ移行
- 並行して、特定技能試験の海外実施が広がれば、直接1号で入国するルートも(停止措置の解除を前提に)戻る可能性
制度対応表
3つの在留資格を比較する
| 育成就労 | 特定技能1号 | 特定技能2号 | |
|---|---|---|---|
| この分野で対応 | ✅ | ✅ | ✅ |
| 在留期間 | 最長3年 | 最長5年(更新可) | 上限なし |
| 転職 | 原則不可 | 自由 | 自由 |
| 家族帯同 | 不可 | 不可 | 可 |
| 採用リードタイム | 6〜12ヶ月 | 4〜6ヶ月 | 既在日者なら早い |
| この業種の固有要件 | |||
| 必要な試験 | 日本語N4以上(目安) | 外食業技能測定試験+日本語試験N4相当 | 1号からの移行のみ |
| 衛生管理 | HACCP対応研修が必要(食品安全の衛生管理手法) | HACCP対応研修が必要(食品安全の衛生管理手法) | HACCP対応研修が必要(食品安全の衛生管理手法) |
外食で使える受入れ制度を並べると、こうなります。
| 制度 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 技能実習 | × | ほとんどが対象外。 一部の給食施設等を除き、対象職種に含まれていなかった |
| 育成就労 | ○ | 2027年4月〜。最長3年、特定技能1号への移行が前提。新制度で初めて対象に |
| 特定技能1号 | ○ | 試験(技能+日本語)で取得。令和7年12月末で43,869人。ただし2026年4月から新規受入れは原則一時停止中 |
| 特定技能2号 | ○ | 2023年に対象追加。令和7年12月末で1,056人。管理者レベルの実務経験が要る |
外食の特殊さは、「育てる」入口がこれまで無かったことに尽きます。長く特定技能1号一本——つまり来日時点で一定の技能と日本語を持つ人しか選べなかった。育成就労が始まれば、技能がまだ高くない人を3年かけて戦力にする選択肢が増えます。即戦力の奪い合いがきつい今、これは中小の店ほど効く一手です。逆に即戦力だけを狙い続ける店は、どこも同じ少数の人材を、より高い条件で取り合うことになります。
この分野で働く外国人の国籍傾向
先に、はっきりさせておきます。これは「どの国の人が接客に向いているか」という話ではありません。国籍で向き不向きを決めるのは、採用の判断基準として不適切ですし、法令上も問題になりえます。配置も育成も、国籍ではなく本人の経験・日本語の習熟度・希望職種で決めてください。そのうえで、国によって事前にすり合わせておく実務上の配慮が変わることはある。そこだけ、具体的に押さえます。
外食で働く外国人の出身国は、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマーが中心です。
- 送り出しの実績(人数の傾向) — ベトナムは日本への送出が全分野で最多で、外食でも最多層を占めます。インドネシア・ミャンマーからの受入れも増加中です。これは「どの国が優秀か」ではなく、送出体制や日本語教育のインフラが整った国ほど人数が出やすい、という構造の話として読んでください。
- 宗教・食習慣への配慮 — イスラム教を信仰する方(インドネシアなどに多い)を受け入れるなら、礼拝時間の確保や、豚肉・アルコールを扱う業務の分担を、採用前に本人と詰めておきます。「調理はするが自分は口にしない」人もいれば、「触れること自体に配慮がほしい」人もいる。出身国でひとくくりにはできません。業態によっては、扱う食材に応じて配置を工夫できます。
- 語学と業務のかけ合わせ — インバウンド対応や英語メニューのある店では、語学力が武器になります。ただしこれも「どの国の出身か」ではなく、本人がどの言語をどこまで使えるかを個別に確認し、活かせるポジションを設計する話です。
もう一度言います。国籍の情報は「人数の傾向」と「配慮すべき実務」を知るためのもので、採用の合否や向き不向きを決めるためのものではありません。ここを取り違えると、国籍を理由にした差別的な取り扱いになり、法令上のリスクを抱えます。
意外と知られていないこの仕事の魅力
「飲食はキツい」——このイメージは根強い。それでも、外食で働く外国人本人からは、他の分野では出てこないポジティブな声がよく上がります。
まず、反応がその場で返ってくること。作った料理に「おいしい」と言われ、接客した客が笑顔で「ありがとう」と帰る。工場のラインでは得にくい「目の前の人を喜ばせた手応え」が、この仕事にはあります。母国語でインバウンド客をさばいて感謝された経験が、本人の自信に直結したという話も多い。
次に、日本語と対人スキルが、いやでも同時に伸びる。注文を聞き、料理を説明し、ときにクレームをさばく。教科書では身につかない「使える日本語」が、毎日の現場で鍛えられます。敬語も丁寧な言い回しも、接客のなかで自然と体に入る。
そして、調理技術は国境を越える武器になります。日本料理の技能は海外でも評価が高く、「いずれ母国で日本食の店を出したい」という目標で来日する人も少なくない。こういう明確なビジョンを持つ人ほど、仕事への姿勢が前向きで、定着もしやすい。
最後に、出口があること。外食は特定技能2号の対象分野です。2号を取れば在留期間の上限は外れ、家族も呼べる。「日本で長く飲食を続けたい」人にとって、ここまで道筋が引かれた分野は多くありません。採用の場で、この出口をきちんと語れる店は強い。
現場でよくある課題と対処法
接客日本語のハードル
定型句——「いらっしゃいませ」「ご注文はお決まりですか」——は、わりとすぐ覚えます。問題はその先。メニューの細かい説明、アレルギー確認、クレーム対応といった台本のない会話で、立ち上がりには必ずフリーズが起きます。
対処法:接客フレーズ集を作り、ロールプレイで反復する。とくにアレルギーや食材の質問は客の安全に直結するので、答え方をマニュアル化して徹底します。注文端末やセルフオーダーで口頭のやりとり自体を減らすのも有効です。「日本語が完璧になってから接客」では遅い。「苦手は仕組みで埋める」が正解です。
衛生管理の文化的ギャップ
衛生で揉めるのは、本人が手を抜くからではありません。「なぜそこまでやるのか」が共有されていないからです。手洗い30秒も、理由を知らなければ忙しい時間に15秒へ縮む。逆に「この一手間が食中毒を止める」と一度腹落ちした人は、見ていなくてもやります。
対処法:写真やイラストを使った「やさしい日本語」マニュアルを用意し、入職時に理由ごと教える。ルールの枚数を増やすより、「なぜ」を一つ通すほうが効きます。外食はHACCPに沿った衛生管理が法律で義務。ここは妥協できないラインとして、繰り返し伝えてください。
繁忙時間帯のプレッシャー
ランチ・ディナーのピークは、短時間に大量のオーダーをさばく勝負どころです。日本語にまだ余裕のない段階でここへ放り込むと、ミスが増え、本人が萎縮し、悪循環に入ります。
対処法:最初はピークを外したシフトで場数を踏ませ、慣れてから段階的にピークへ入れる。あわせて、キッチンで飛び交う指示語(「あと2分」「先に出して」「足りない」)を事前にリスト化して覚えてもらうと、忙しい時のやりとりが目に見えて変わります。
宗教・食文化への配慮
ムスリムの方が豚肉やアルコールを扱う業務に就くことへの考え方は、本人によって幅があります。「調理はできるが食べない」人もいれば、「触れること自体に配慮がほしい」人もいる。出身国でひとくくりにはできません。
対処法:採用前の面談で、扱う食材と業務を具体的に説明し、本人の意向を確認しておく。業態によっては、食材に応じて配置を調整できます。ここを曖昧にしたまま採ると、入ってから「やっぱり難しい」となりがち。先に詰めるほど、後で揉めません。
一緒に働く日本人スタッフへの影響
外国人スタッフが入って変わるのは、本人だけではありません。日本人スタッフの働き方も、店のやり方も動きます。
まず、マニュアルが整う。飲食は「見て覚えろ」「背中で学べ」が根強い業界ですが、外国人に教えるには、調理手順も接客フローも言葉にして、誰が見ても分かる形にするしかない。手間はかかります。でも、それは日本人の新人教育にそのまま効く。外国人の受入れを機に店全体のオペレーションが底上げされた、という例は珍しくありません。
インバウンド対応力も上がる。英語やベトナム語で接客できるスタッフが一人いるだけで、海外客の入りやすさが変わります。「外国人スタッフが入ってから海外客が増えた」という声は、観光地の店を中心によく聞きます。
チームの結束が強まることも多い。言葉の壁を越えようと声かけが自然に増え、連携の要る飲食では、それがそのままチーム力になります。
ただし、最初の負担は正直に見込んでください。とくに接客では、困った外国人スタッフを日本人がフォローに入る場面が、立ち上がりに頻発します。これを「気づいた人がやる」で回すと、特定の優しい一人に負担が集中し、その人から先に潰れます。フォロー役と時間帯をシフトで決めておく。たったそれだけで、結果がまるで違います。
この分野特有のルールと注意点
雇用主として事前に確認すること
- 「育成の蓄積がない」が前提 — 技能実習でほぼ受け入れてこなかったぶん、業界に育成ノウハウが溜まっていません。育成就労で始めるなら、特定技能の受入れ経験がある企業や登録支援機関の知見を、遠慮なく借りる。ゼロから自前は、遠回りです。
- 転籍制限期間は1年 — 育成就労での外食の転籍制限期間は1年(2026年1月23日閣議決定により確定)。
- 外食業技能測定試験 — 特定技能1号に進むのに必要な試験で、衛生・調理・接客全般が問われます。国内外で実施され合格率は比較的高め。ただし育成就労の期間中に計画的に対策しておくこと。※前述のとおり、試験自体が当面停止されている点に注意してください。
- 食品衛生法・HACCP — 飲食店はHACCPに沿った衛生管理が義務です。食中毒は店の存続に直結します。外国人スタッフにも日本の基準を繰り返し伝え、守れる体制をつくってください。
- 労働時間と深夜勤務 — 営業時間が長く深夜営業もある業態だけに、シフト管理はシビアにいきます。法定上限を超えていないか、休日が取れているかを管理し、深夜帯(22時〜翌5時)には深夜割増賃金が必要です。ここを曖昧にする店は、外国人うんぬんの前に、まず労務リスクを抱えています。
- 飲食料品製造業とは別物 — 接客を含む外食と、工場製造が中心の飲食料品製造業は、在留資格上も別分野です。製造業の特定技能を持つ人が外食に移るには、改めて外食業の技能測定試験に合格する必要があります。
受入れを始めるには
入国までの流れ(海外採用・特定技能1号)
- 求人・書類選考(1〜2ヶ月)
- 技能測定試験・日本語試験(2〜3ヶ月)
- 在留資格申請(1〜2ヶ月)
- 入国・衛生研修・配属(完了)
外食で受入れを進めるなら、順番はだいたいこうです。
- 受入れルートの確認 — 2027年4月以降は育成就労が使えます。それまでの受入れルートは特定技能1号。ただし前述のとおり新規受入れが原則一時停止中なので、新規採用を計画するなら最新の交付状況を必ず確認してください。「いつまでに何人」「育てる余裕があるか」で、取るべきルートは変わります。
- 支援機関の選定 — 育成就労なら監理支援機関、特定技能なら登録支援機関を選びます。外食は技能実習の実績がないぶん、特定技能での外食受入れを数多くこなした機関を選ぶのが肝心です。面接の設定から入国手続き、入社後のフォローまで——ここのパートナー選びで、先々の楽さが決まります。
- 店の受入れ体制づくり — 調理手順書・接客マニュアルの多言語化(または「やさしい日本語」化)、衛生研修、住居の手配。飲食はそもそもマニュアルが薄い店が多い。外国人の受入れを「業務を標準化する好機」と捉えると、一気に進みます。
- 日本人スタッフへの説明 — 「なぜ採るのか」「どんな役割か」「何をサポートしてほしいか」を先に共有する。ここを飛ばすと、現場が「聞いてない」とこじれます。
- 入国後の育成計画 — 育成就労なら、3年で何を身につけさせ、特定技能へどうつなぐか。調理→接客→店舗管理と段階を踏むロードマップがあれば、本人のモチベーションも続きます。
最後に、ひとつだけ。うまくいく店とそうでない店を分けるのは、制度の知識量ではありません。「最初の1ヶ月、誰がどこまで教えるか」を決めてあるかどうか——ほぼこの一点です。マニュアルが店長の頭の中にしかない店は、3週間で必ず「言った/言わない」が始まる。仕込みの段取りを写真1枚に落としてある店は、立ち上がりが速い。制度はもちろん大事ですが、勝負はその手前、段取りでほぼ決まります。数々の現場を見てきた私たちが、いちばん確かだと言い切れるのは、そこです。
> ご注意: 本記事は2026年5月時点の公開情報にもとづいています。在留者数データの出典は出入国在留管理庁(令和7年12月末/2025年12月末時点の公表資料)です。外食業特定技能1号の受入れ一時停止措置については出入国在留管理庁・農林水産省の公表に基づきます。育成就労法は2027年4月1日に施行されます。分野別の具体的な運用方針は今後の政省令で定まる部分があり、最新の情報は出入国在留管理庁および厚生労働省の公式発表をご確認ください。
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