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鉄道分野は、日本の公共交通インフラを支える重要な産業です。全国に約200の鉄道事業者が存在し、毎日およそ2,500万人の旅客を輸送しています。しかし近年、とりわけ地方の中小鉄道事業者では深刻な人手不足が続いています。保線作業員や車両整備士といった「鉄道を安全に走らせるための裏方」の担い手が急速に減少しており、技術の継承が大きな課題となっています。
鉄道分野が外国人材の受入れ対象となったのは2024年4月のことです。特定技能制度において新たに対象分野に追加され、「軌道整備」「電気設備整備」「車両整備」「車両製造」「運輸係員」の5つの業務区分が設けられました。線路の点検・補修を行う軌道整備、架線や信号設備を維持する電気設備整備、車両の検査・修繕を行う車両整備、鉄道車両を製造する車両製造、そして駅係員や車掌などの運輸係員と、鉄道運営に必要な幅広い職種が対象です。
2027年4月に施行される育成就労制度においても、鉄道分野は全17分野のひとつとして含まれています。旧技能実習制度では対象外だったため、鉄道分野における外国人材の受入れは文字どおり「ゼロからのスタート」です。前例が少ないぶん手探りの部分もある。裏を返せば、業界全体で受入れ体制を一から設計し直せるということだ。
鉄道分野における外国人材の受入れ状況を整理します。
技能実習生の在留者数:0人
特定技能1号「鉄道」の在留者数:54人(出入国在留管理庁、令和7年12月末時点・速報値)
主な送出国と傾向:制度開始直後のため、国籍別の傾向を示すだけの十分なデータはまだ蓄積されていません。今後、試験の海外実施が本格化するにつれて、送出国の傾向が見えてくると予想されます。
鉄道分野は、他の特定技能分野(たとえば介護や外食業)と比べると、まだ「これから受入れが本格化する分野」という位置づけです。実績が少ない今は、受入れ体制を腰を据えて整える猶予期間でもある。
育成就労の受入れ見込み人数:1,100人(5年間の上限)
特定技能1号の5年間受入れ見込み人数:2,900人(5年間の上限)
政府が想定するタイムライン:
鉄道分野は制度上のスタートが遅かったぶん、受入れ見込み人数の設定も慎重です。ただし、地方鉄道の人手不足は待ったなしの状況であり、制度が本格稼働すれば受入れペースは加速する可能性があります。
鉄道分野で利用可能な外国人受入れ制度は以下のとおりです。
| 制度 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 技能実習 | × | 旧制度では対象外。鉄道分野の技能実習生はいない |
| 育成就労 | ○ | 2027年4月〜。17分野に含まれる。見込み人数1,100人 |
| 特定技能1号 | ○ | 2024年4月〜。5年間で2,900人の受入れ見込み |
| 特定技能2号 | × | 鉄道分野は対象外。 1号のみの設定 |
注目ポイント:鉄道分野では特定技能2号が設けられていません。つまり、特定技能1号(在留期間は通算5年が上限)を超えて長期就労するためには、他の在留資格(たとえば「技術・人文知識・国際業務」など)への切替えが必要になります。この点は、鉄道事業者が外国人材の長期定着を考えるうえで押さえておくべき重要なポイントです。今後、特定技能2号への拡大が検討される可能性もある。制度の動きは追い続けておきたい。
先に、はっきりさせておきます。これは「どの国の人が鉄道業務に向いているか」という話ではありません。国籍で向き不向きを決めるのは、採用の判断基準として不適切ですし、法令上も問題になりえます。配置も育成も、国籍ではなく本人の経験・技能・日本語の習熟度・希望で決めてください。そのうえで、国によって事前にすり合わせておく実務上の配慮が変わることはある。そこだけ、具体的に押さえます。
鉄道分野は2024年に特定技能の対象へ追加されたばかりで、国籍別の詳細な実績データはまだ多くありません。関連分野での活躍状況から、今後の傾向をある程度見通せます。
国籍はあくまで参考情報です。出身国よりも本人の適性・技能・日本語能力を重視した採用が不可欠です。国籍を理由にした差別的な取り扱いは、法令上のリスクを抱えます。
鉄道の仕事と聞くと「運転士」のイメージが強いかもしれませんが、特定技能・育成就労で対象となる業務は、鉄道を安全に走らせるための「縁の下の力持ち」的な仕事です。そこには、知られざる魅力がいくつもあります。
社会インフラを支える誇り。鉄道は毎日何百万人もの人が利用する公共交通です。線路の整備や車両の点検といった仕事は、直接乗客の目に触れることは少なくても、「自分の仕事が安全な運行を支えている」という実感は大きなやりがいになります。日本の鉄道の定時運行率や安全性は世界トップクラスであり、その水準を維持する仕事に携われることは、母国に帰った後も高く評価される経験です。
安定した雇用環境。鉄道は景気の変動に比較的左右されにくい産業です。製造業のように受注減で派遣切りが起きるようなリスクは低く、安定した雇用が見込めます。また、鉄道事業者の多くは比較的規模が大きく、福利厚生や労働環境が整っているケースが多い点も魅力です。
専門技術が身につく。軌道整備ではレールの溶接や道床の突き固め、車両整備ではブレーキや台車の分解点検など、高度な専門技術を習得することができます。こうした技術は、日本の鉄道技術が海外に輸出される際にも重宝されるスキルであり、将来的に母国の鉄道整備に貢献できる可能性もあります。
チームで働く一体感。鉄道の保線作業や車両整備は、一人では完結しない仕事がほとんどです。チームで声を掛け合いながら安全を確認し、作業を進めていくスタイルは、職場の一体感を生みやすい環境です。
鉄道は公共交通であり、作業ミスが重大事故に直結する可能性があります。安全に関する指示を正確に理解できるかどうかは、他の分野以上に厳しく問われます。「危ない!」「電源を切れ!」といった緊急時の指示が瞬時に伝わらなければ、命に関わります。
対処法:安全に関する用語や緊急時の指示は、入職前に徹底的に教育します。日本語だけでなく、母国語での安全マニュアルを整備する事業者もあります。また、安全確認の「指差喚呼」(指をさして声に出して確認する動作)は言語能力に依存しにくい確認方法であり、外国人スタッフにも導入しやすい習慣です。
鉄道の軌道整備や電気設備の点検は、列車が運行していない深夜から早朝にかけて行われることが多いのが特徴です。夜間作業への慣れや、生活リズムの調整が課題になります。
対処法:夜間作業シフトに段階的に慣れていくプログラムを組むことが有効です。最初は日中の作業から始め、徐々に夜間作業に入る体制を整えます。住居の防音・遮光対策も重要で、日中にしっかり休息が取れる環境を確保することが欠かせません。
鉄道には独特の専門用語が多く存在します。「まくらぎ」「バラスト」「パンタグラフ」「ATS」「閉塞」など、日本人でも馴染みのない言葉が日常的に飛び交います。
対処法:鉄道専門用語を写真やイラスト付きで解説した多言語用語集を整備することが効果的です。実際の現場で使われる部品や設備を目で見て、触れて、名前を覚えるOJT(現場実習)を重視する事業者が多くなっています。
地方鉄道の沿線は都市部と比べて生活インフラが限られています。母国語での対応が可能な医療機関や、馴染みのある食材を扱うスーパーが近くにないケースも少なくありません。
対処法:受入れ前に地域の生活環境を詳しく説明し、本人が納得したうえで来てもらう。聞いていなかった、では早期離職につながる。地域の国際交流協会や在住外国人コミュニティとつなぎ、孤立を防ぐ。最近ではオンライン通販やオンライン診療の活用で、地方でも生活の不便さをかなり軽減できるようになっています。
外国人スタッフの受入れは、鉄道の現場で働く日本人スタッフにもさまざまな変化をもたらします。
安全意識の再確認につながる。外国人に安全ルールを一から教える過程で、日本人スタッフ自身も「なぜこのルールがあるのか」を改めて考える機会が生まれます。長年の経験で「当たり前」になっていた安全確認動作の意味を再認識し、職場全体の安全意識が向上したという事例が報告されています。
技術の言語化が進む。鉄道の現場には「見て覚えろ」的な職人気質の文化が残っている職場もあります。外国人スタッフに教えるためには、暗黙知を言語化し、手順書やマニュアルに落とし込む必要があります。この作業は、将来の日本人の若手育成にも役立つ財産になります。
人手不足の直接的な軽減。地方鉄道では、少人数の保線班で広い区間を担当しているケースが多く、人員に余裕がありません。外国人スタッフが加わることで、一人あたりの負担が軽減され、休暇が取りやすくなるなどの直接的なメリットがあります。
一方で、指導にかかる時間と労力は必要。特に安全管理が厳しい鉄道分野では、「理解できているか」を確かめる時間を惜しんではならない。指導役の日本人スタッフが通常業務と指導の両方を担うと負担が大きくなるため、指導期間中は業務量を調整するなどの配慮が求められます。
鉄道分野には、公共交通の安全を守るための独自のルールや要件があります。
業務区分は5区分:軌道整備、電気設備整備、車両整備、車両製造、運輸係員の5つです。業務区分ごとに求められる技能や試験内容が異なります。受入れにあたっては、自社がどの業務区分に該当するかを正確に把握することが第一歩です。
転籍制限期間:育成就労制度のもとでの鉄道分野の転籍制限期間は、1年(2026年1月23日閣議決定により確定)。
特定技能評価試験:特定技能1号への移行には、鉄道分野の技能評価試験への合格が必要です。試験は業務区分ごとに設定されており、学科試験と実技試験で構成されます。試験の実施体制(海外での実施会場や実施頻度など)はまだ整備途上です。
特定技能2号は対象外:鉄道分野では特定技能2号が設けられていません。特定技能1号の在留期間は通算5年が上限であり、それ以上の在留を希望する場合は他の在留資格への切替えが必要です。今後の制度見直しで2号が追加される可能性はありますが、現時点では未定です。
安全教育の義務:鉄道事業者は鉄道事業法に基づく安全管理体制を構築する義務があり、外国人スタッフにも日本人と同等の安全教育を実施する必要があります。線路内作業の安全確保や電気取扱いの注意事項など、命に関わる教育は日本語の理解度に関わらず確実に伝わる方法で行う必要があります。
旧制度からの移行がない新分野:技能実習の対象外だったため、旧制度からの移行者がいません。すべてが新規の受入れとなる点は、他の分野(たとえば建設や食品製造など、技能実習の実績が豊富な分野)とは大きく異なります。受入れノウハウの蓄積がこれからであることを念頭に、業界全体での情報共有や好事例の発信が重要です。
職安法による有料職業紹介の禁止:職業安定法の規制により「軌道整備」「電気設備整備」は建設作業に該当するため有料職業紹介が禁止されています。これらの業務区分で外国人材を採用する際に職業紹介を利用する場合は、無料職業紹介事業者からの紹介を受ける必要があります。利用する紹介機関が無料職業紹介の許可を持っているか事前に確認してください。
鉄道分野で外国人材の受入れを検討する場合、以下のステップで進めるのが一般的です。
自社の業務区分の確認:鉄道分野の5つの業務区分(軌道整備・電気設備整備・車両整備・車両製造・運輸係員)のうち、どの区分で外国人材を受け入れるかを明確にします。業務区分によって求められる技能や試験が異なる。後で区分違いと分かると申請がやり直しになるため、最初に正確に押さえる。
監理支援機関(育成就労の場合)または登録支援機関(特定技能の場合)の選定:鉄道分野は新しい分野であるため、受入れ実績が豊富な機関はまだ限られています。鉄道分野の受入れに対応できる機関を早めに探し、情報収集に動く。
安全教育体制の整備:鉄道は安全が最優先の分野です。外国人スタッフ向けの安全教育プログラム(多言語マニュアル、安全用語集、緊急時対応の訓練など)を事前に準備しておくことが欠かせません。
住居・生活支援の準備:特に地方鉄道の場合、勤務地周辺の生活環境が限られていることがあります。住居の確保だけでなく、日常生活のサポート(買い物、医療、コミュニティとのつながり)についても計画を立てておきましょう。
日本人スタッフへの事前説明:安全を最優先とする鉄道の現場では、外国人スタッフとの協働に不安を感じる日本人スタッフもいるかもしれません。受入れの目的や安全教育の計画を丁寧に共有する。現場の不安が消えなければ、指導役は本気で教えてくれない。
鉄道分野の受入れは、まだ誰も正解を持っていない。ベテランの退職と地方路線の維持という現実が、先に待ったなしで来ている。前例がないぶん、自社の現場に合った体制を最初から組める。安全を一段も下げず、来てくれた人が長く線路を守り続けられる職場をつくる。それが、走り続ける鉄道への一番の備えになる。
> ご注意: 本記事の内容は2026年2月時点の公開情報に基づいています。最新の情報は出入国在留管理庁および厚生労働省の公式発表をご確認ください。
この分野で利用可能な在留資格のステップです