読み込み中...
読み込み中...
自動車整備分野は、自動車の点検・整備・修理を担う専門的な技術職です。日常点検整備、定期点検整備(車検整備)、分解整備(エンジンやブレーキ等の重要部品の整備)など、自動車の安全走行を支えるすべての工程が対象となります。日本国内には約9万の整備工場があり、そのほとんどが従業員10人以下の小規模事業者です。
自動車整備業界が直面している最大の課題は、深刻な後継者不足・人手不足です。自動車整備士の平均年齢は47.2歳(令和5年度調査)と年々上昇しており、若年層の入職者数は減少傾向が続いています。自動車整備士の有効求人倍率は5.45倍(令和6年度)と全業種平均(1.25倍)の約4倍以上に達しており、地方の整備工場では「求人を出しても応募が来ない」という声が常態化しています。
この分野の最大の特徴は、国家資格「自動車整備士」との連携です。日本で自動車の分解整備を行うには、自動車整備士の資格を持つ人員が一定数必要です。外国人材にも自動車整備士3級等の国家資格取得が推奨されており、資格を取得すれば技術者としてのキャリアが大きく広がります。また、EV(電気自動車)やハイブリッド車の普及に伴い、新しい技術への対応も今後の重要なテーマです。
自動車整備分野における外国人材の受入れ状況を整理します。
技能実習「自動車整備」の在留者数:約5,000〜6,000人(推定)
特定技能1号「自動車整備」の在留者数:4,560人(出入国在留管理庁、令和7年12月末時点・速報値)
特定技能2号「自動車整備」の在留者数:320人(令和7年12月末時点・速報値)。2023年に対象分野に追加されて以降、2号取得者も増え始めています。
主な送出国と傾向:自動車整備分野ではベトナムとフィリピンが中心的な送出国です。両国とも自動車やバイクの整備に馴染みのある人材が多く、基礎的な機械いじりの経験を持って来日するケースが少なくありません。近年はインドネシアやミャンマーからの受入れも徐々に広がっています。
育成就労制度(2027年4月施行)における自動車整備分野の受入れ見込み人数は以下のとおりです。
全17分野のなかでは比較的小規模な数字ですが、これは自動車整備業界自体の規模や、国家資格との連携が求められるという分野特性を反映したものです。受入れ人数が少ない分、一人ひとりにじっくり時間をかけて育てられる。
特定技能1号の受入れ見込み人数:育成就労からの移行者を含め、受入れ上限が設定されています。整備工場の慢性的な人手不足を考えると、特定技能への移行は業界にとって待望のキャリアパスです。
政府が想定するタイムライン:
自動車整備分野で利用可能な外国人受入れ制度は以下のとおりです。
| 制度 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 技能実習 | ○ | 2016年4月に対象職種として追加。育成就労への移行に伴い新規受入れは順次終了 |
| 育成就労 | ○ | 2027年4月〜。最長3年、特定技能1号への移行を前提 |
| 特定技能1号 | ○ | 自動車整備分野特定技能評価試験+日本語試験(または技能実習2号修了)で取得可能 |
| 特定技能2号 | ○ | 2023年に対象分野に追加。自動車整備士2級相当の技能が求められる |
注目ポイント:自動車整備分野は、技能実習から育成就労、特定技能1号、そして特定技能2号まで、すべての制度に対応しています。特定技能2号を取得すれば在留期間の上限がなくなり、家族の帯同も可能になります。つまり、「育成就労(3年)→ 特定技能1号(5年)→ 特定技能2号(上限なし)」という長期キャリアパスが制度上用意されており、外国人材にとっても「自動車整備のプロとして日本で長く働き続ける」という将来像を描くことができます。
先に、はっきりさせておきます。これは「どの国の人が整備に向いているか」という話ではありません。国籍で向き不向きを決めるのは、採用の判断基準として不適切ですし、法令上も問題になりえます。配置も育成も、国籍ではなく本人の経験・技能・日本語の習熟度・希望で決めてください。そのうえで、国によって事前にすり合わせておく実務上の配慮が変わることはある。そこだけ、具体的に押さえます。
自動車整備分野で働く外国人材は、ベトナムとフィリピンが中心で、近年はインドネシアやミャンマーからの受入れも増えています。
ある地方の整備工場の社長は「うちのベトナム人スタッフは3人とも『車が好き』という気持ちが共通している。言葉の壁はあっても、車を前にすると自然とコミュニケーションが取れる」と話しています。専門性が国籍を超えた共通言語になる好例ですが、これは個人の関心や経験の話であって、国籍を採用の合否や向き不向きの基準にしてよいという話ではありません。国籍を理由にした差別的な取り扱いは、法令上のリスクを抱えます。
「整備工場の仕事は油まみれできつい」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、外国人材の視点から見ると、自動車整備には意外な魅力があります。
国家資格が取得でき、世界で通用する技術が身につく。自動車整備分野の最大の魅力は、日本の国家資格「自動車整備士」の取得を目指せる点です。3級自動車整備士の資格を取得すれば、日本国内での整備業務の幅が広がるだけでなく、帰国後も「日本の国家資格を持つ整備士」として高い評価を受けることができます。母国に日本車が多く流通しているベトナムやフィリピンでは、日本仕込みの整備技術を持つ人材への需要が高く、独立開業の道も開けます。
最先端の技術に触れられる。日本はEV(電気自動車)やハイブリッド車、自動運転技術の最先端を走る国のひとつです。整備工場で働くことで、これらの先進技術に直接触れる機会があります。「日本で最新の車の整備を学びたい」という動機で来日する外国人材も増えており、技術革新が進む自動車整備分野は、学びの場としても大きな魅力を持っています。
一台の車を「直した」という達成感。製造業のライン作業と異なり、自動車整備は一台一台の不具合を診断し、修理し、お客様に引き渡すという一連のプロセスに携わることができます。あるフィリピン出身の技能実習生は「エンジンの調子が悪い車を直して、お客さんが『ありがとう』と言ってくれたときが一番うれしい」と話しています。自分の仕事の成果が目に見える形で返ってくることが、大きなやりがいにつながっています。
少人数の工場だからこそ、家族のような関係が築ける。自動車整備工場は従業員数が少ない事業所が大半です。大規模な工場とは異なり、社長や先輩と毎日顔を合わせて一緒に作業することで、家族のような信頼関係が築かれるケースが多くあります。「うちの外国人スタッフは、もう家族同然だ」という整備工場経営者の声は、この分野ならではの光景です。
自動車整備には「ディスクブレーキ」「キャリパー」「トルクレンチ」「エアフィルター」「ファンベルト」など、独特の専門用語が大量に出てきます。日本語能力試験のN4やN3に合格していても、整備の現場で使われる用語はまったく別の世界です。加えて、整備マニュアルや点検記録簿は日本語で書かれており、読解力も求められます。
対処法:自社でよく扱う車種の整備でよく使う用語を100語程度リストアップし、日本語・母国語・写真の3点セットで「整備用語カード」を作成している工場があります。また、点検項目をチェックリスト化し、イラスト付きで分かりやすくしたオリジナルの作業手順書を整備する工場も増えています。「見て覚える」文化がもともと強い業界だからこそ、動画を活用したOJT教材も効果的です。
リフトアップした車両の下での作業、高電圧を扱うハイブリッド車の整備、回転体や高温部品への接触リスクなど、自動車整備の現場には危険が伴います。安全に関する知識が不十分なまま作業に入ることは、重大な事故につながりかねません。
対処法:入社直後に安全教育を母国語で徹底的に実施することが基本です。特に、リフトの操作手順やハイブリッド車の高電圧に関する注意事項は、実物を使って体験的に教えることが効果的です。「危険」「止まれ」「電源を切れ」などの緊急時の日本語は、最優先で習得させてください。ヒヤリハット事例を母国語に翻訳して共有している工場もあります。
ディーラーではなく街の整備工場の場合、外国人スタッフがお客様と直接やり取りする場面が出てくることがあります。車検の説明や整備内容の報告など、一定の日本語コミュニケーション力が求められます。
対処法:当初はお客様対応を日本人スタッフが担当し、外国人スタッフは技術作業に集中させるという役割分担が現実的です。日本語力が向上してきた段階で、簡単な説明や受付から徐々に担当範囲を広げていくステップアップ方式を取る工場が多くあります。定型的な説明フレーズ(「点検が完了しました」「こちらの部品を交換しました」など)を事前に練習しておくと効果的です。
自動車整備工場は地方や郊外に立地していることが多く、外国人材にとっての生活環境が課題になるケースがあります。最寄りのスーパーやコンビニまで車が必要、母国の食材が手に入りにくい、同国人コミュニティが近くにないといった状況が、孤独感やストレスにつながることがあります。
対処法:自動車整備の仕事に就く外国人材は車やバイクに興味がある方が多いため、通勤用の原付や自転車を支給する工場もあります。近隣に外国人コミュニティがない場合は、SNSを通じた同国人とのつながりをサポートしたり、休日に近隣都市への買い出しに同行したりといった生活面での支援が定着率の向上につながります。
自動車整備工場は少人数の職場が多いため、一人の外国人材が入ることによる影響は他の分野以上に大きくなります。
ベテラン整備士の「教える力」が引き出される。長年の経験を持つベテラン整備士が、外国人材に技術を教えることで新たなやりがいを見出すケースが多く報告されています。言葉で伝わりにくい分、実技を見せながら丁寧に指導する場面が増え、結果として技能伝承の質が向上したという声もあります。ある整備工場のベテラン整備士は「言葉が通じにくいからこそ、自分のやり方を見直すきっかけになった。今まで感覚でやっていたことを、改めて手順として整理できた」と話しています。
職場に新しい視点が入る。外国人材の受入れをきっかけに、作業手順書の整備、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の見直し、工具管理の改善などが進んだ工場もあります。「外国人に教えるために作ったマニュアルが、日本人の新人教育にも使えるようになった」という副次的な効果は、他の分野でも共通して聞かれるエピソードです。
小規模工場ゆえの密な関係。従業員5〜10人程度の工場では、外国人材も「仲間の一人」として自然に溶け込むことが多いです。昼食を一緒に食べたり、休日に社長の家族とバーベキューをしたりと、業務を超えた人間関係が生まれやすいのは、小規模事業者ならではのメリットです。こうした関係性が、外国人材の定着率を高める大きな要因になっています。
一方で、少人数であるがゆえに「合わなかった場合」の影響も大きくなります。受入れ前に、既存スタッフへの丁寧な説明と、外国人材のプロフィール(出身国・経歴・趣味など)の共有を行い、受入れに対する心理的なハードルを下げておくことが大切です。
自動車整備分野には、他の分野にはない独自の要件・注意点があります。
国家資格「自動車整備士」との関連:自動車の分解整備を行う事業場には、一定数の自動車整備士有資格者を配置する義務があります。外国人材も自動車整備士3級の取得が推奨されており、資格試験は日本語で実施されます。試験は日本語なので、企業が学習をどこまで支えられるかで合否が分かれる。
転籍制限期間:育成就労制度における転籍制限期間は、2年(2026年1月23日閣議決定により確定)。企業判断で1年に短縮可能ですが、その場合は待遇向上(昇給等)の義務が生じます。この期間中は同一の受入れ機関で就労を継続する必要があります。
自動車整備分野特定技能評価試験:特定技能1号への移行時に必要となる試験です。自動車のエンジン、シャシ、電装の基礎的な整備に関する学科試験と実技試験で構成されます。育成就労から特定技能1号に移行するには、この試験への合格が必要です。
特定技能2号の要件:自動車整備士2級相当の技能が求められます。2級整備士資格は、自動車の構造や機能に関する高度な知識と技能を証明するもので、取得には相当の学習と実務経験が必要です。
EV・ハイブリッド車対応:電気自動車やハイブリッド車の整備には高電圧に関する特別な知識と安全教育が求められます。今後、これらの車種が増えるにつれて、外国人材への追加的な研修が必要になる場面が増えると見込まれます。
道路運送車両法への準拠:自動車整備業は道路運送車両法に基づく認証を受けた事業場で行う必要があり、整備作業の記録保持義務もあります。外国人材が作成する整備記録についても、正確な日本語での記載が求められるため、記録の書き方に関する指導が必要です。
技術・人文知識・国際業務(技人国)ビザで採用する場合の要件:技人国ビザで自動車整備士として働くには、大学や専門学校で自動車工学・機械工学を専攻した上で、自動車整備士2級以上の資格を保有していること、または整備工場で将来的に自動車整備主任者として従事することが見込まれることが主な要件です。ライン的な単純作業は対象とならず、診断・点検・技術指導などの高度な専門業務への従事が必要です。
自動車整備分野で外国人材の受入れを検討する場合、以下のステップで進めるのが一般的です。
自社の認証区分を確認する:自社が道路運送車両法に基づく認証工場または指定工場であることを確認してください。また、外国人材に従事させる予定の業務が、育成就労・特定技能の対象業務に該当するかも併せて確認します。
支援機関の選定:受入れる制度によって関わる機関が異なります。
受入れ体制の整備:指導担当の整備士の選定、住居の手配、安全教育プログラムの準備、日本語学習の支援体制などを整えます。小規模工場の場合、住居探しや生活サポートの負担が大きくなりやすい。監理支援機関や日本自動車整備振興会連合会の支援メニューも先に確認しておく。
日本人スタッフへの事前説明:少人数の工場では特に重要です。外国人材と一緒に働くことについて、既存のスタッフに具体的に説明し、不安や疑問に答える場を設ける。
資格取得の支援計画を立てる:自動車整備分野ならではのステップとして、自動車整備士3級の資格取得に向けた支援計画を検討しましょう。日本語での試験対策は外国人材にとって大きなハードルになる。日常業務のなかで試験範囲の知識が身につくOJT計画を組めば、合格はぐっと近づく。
自動車整備は、車を安全に走らせるという社会的使命を担う仕事だ。国家資格やEV化への対応など、求められる専門性は高い。だからこそ、計画的に育てれば外国人材は長く現場を支える戦力になる。「育成就労 → 特定技能1号 → 特定技能2号」という道筋を本人に示し、「この工場で成長できる」と思ってもらう。それができれば、人は辞めない。工場はもっと強くなる。
> ご注意: 本記事の内容は2026年2月時点の公開情報に基づいています。最新の情報は出入国在留管理庁および厚生労働省の公式発表をご確認ください。
この分野で利用可能な在留資格のステップです