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介護分野は、高齢化が急速に進む日本において最も深刻な人手不足に直面している産業のひとつです。厚生労働省の推計では、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされる一方で、供給見込みは約215万人にとどまり、約57万人の不足が生じるとされています。国内人材の確保だけでは到底追いつかない状況のなか、外国人材の受入れは「検討するかどうか」ではなく「どのように受け入れるか」というフェーズに移ってきています。
介護の仕事は、食事・入浴・排泄の介助といった身体介護から、レクリエーションの企画・実施、利用者やご家族とのコミュニケーション、記録業務まで多岐にわたります。他の分野と比べて「人と人との関わり」が業務の中心にあるため、日本語でのコミュニケーション能力が特に重視されるのが大きな特徴です。
外国人材の受入れルートとしては、EPA(経済連携協定)、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号、そして2027年4月からスタートする育成就労と、実に5つの制度が並立しています。これは他の分野にはない介護独自の状況であり、「どの制度を使えばよいのか」という選択そのものが、初めて外国人採用を検討する事業者にとっての最初のハードルになっています。
介護分野における外国人材の受入れ状況を整理します。
技能実習「介護」の在留者数:約25,000人(2024年時点推定)
特定技能1号「介護」の在留者数:67,871人(出入国在留管理庁、令和7年12月末時点・速報値)
EPA介護福祉士候補者:累計約7,000人が入国(2008年〜)
在留資格「介護」:介護福祉士の国家資格を取得した外国人が対象。人数は限定的ですが、在留期間の更新に上限がなく、長期就労が可能な点が特徴です。
主な送出国と傾向:送り出しの中心はインドネシア、フィリピン、ミャンマーで、ベトナムからの受入れも一定数あります。これは「どの国が向いているか」ではなく、二国間協定の有無や送出体制・日本語教育のインフラが整った国ほど人数が出やすい、という構造の話として読んでください。
育成就労の受入れ見込み人数:33,800人(2027年4月〜2028年度末・約2年間の上限)
特定技能1号の受入れ見込み人数:126,900人(2024年度〜2028年度末・5年間の上限)
政府が想定するタイムライン:
| 育成就労 | 特定技能1号 | 介護ビザ(介護福祉士) | |
|---|---|---|---|
| この分野で対応 | ✅ | ✅ | ✅ |
| 在留期間 | 最長3年 | 最長5年(更新可) | 5年(更新可) |
| 転職 | 一定の場合には転籍が可能 | 自由 | 介護施設なら転職可 |
| 家族帯同 | 不可 | 不可 | 可 |
| 採用リードタイム | 6〜12ヶ月 | 4〜6ヶ月 | 国家試験合格後 |
| この業種の固有要件 | |||
| 日本語要件 | N4以上(目安) | N4以上+介護日本語評価試験 | N2以上(目安) |
| 受入枠の上限 | 常勤介護職員の20%以内 | 常勤従業員数まで | 制限なし |
介護分野で利用可能な外国人受入れ制度は以下のとおりです。
| 制度 | 対応 | 備考 |
|---|---|---|
| 技能実習 | ○ | 2017年11月追加。育成就労への移行に伴い新規受入れは順次終了 |
| 育成就労 | ○ | 2027年4月〜。最長3年、特定技能1号への移行を前提 |
| 特定技能1号 | ○ | 介護技能評価試験+日本語試験(または技能実習2号修了)で取得可能 |
| 特定技能2号 | × | 介護分野は対象外。 代わりに在留資格「介護」への移行を想定した制度設計 |
| EPA | ○ | インドネシア・フィリピン・ベトナムの3か国限定。介護福祉士の国家試験合格が前提 |
| 在留資格「介護」 | ○ | 介護福祉士の国家資格保有者が対象。在留期間更新の上限なし |
注目ポイント:介護分野では特定技能2号が設けられていません。これは他の多くの分野と異なる大きな特徴です。介護福祉士の国家資格を取得すれば在留資格「介護」に切り替えることができ、家族の帯同や在留期間の制限なしでの就労が可能になります。つまり、介護分野における長期キャリアパスは「育成就労 → 特定技能1号 → 介護福祉士取得 → 在留資格『介護』」という流れが想定されています。
先に、はっきりさせておきます。これは「どの国の人が介護に向いているか」という話ではありません。国籍で向き不向きを決めるのは、採用の判断基準として不適切ですし、法令上も問題になりえます。配置も育成も、国籍ではなく本人の経験・日本語の習熟度・資格・希望で決めてください。そのうえで、国によって事前にすり合わせておく実務上の配慮が変わることはある。そこだけ、具体的に押さえます。
介護で働く外国人の出身国は、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、ベトナムが中心です。
もう一度言います。国籍の情報は「人数の傾向」と「配慮すべき実務」を知るためのもので、採用の合否や向き不向きを決めるためのものではありません。ここを取り違えると、国籍を理由にした差別的な取り扱いになり、法令上のリスクを抱えます。
「介護は大変」というイメージが先行しがちですが、実際に介護現場で働く外国人からは、意外にもポジティブな声が多く聞かれます。
「ありがとう」と直接言ってもらえる仕事。製造業や建設業では完成品が誰の手に届くのか見えにくいですが、介護は目の前の利用者から感謝の言葉をもらえる仕事です。ある施設で働くベトナム人スタッフは「おばあちゃんが毎朝私の名前を呼んで笑ってくれる。それだけで頑張れる」と話しています。こうした「人から直接感謝される実感」が、定着率の高さにもつながっています。
日本語力が伸びやすい環境。介護は利用者との会話が業務の一部であるため、他の分野と比べて日本語を使う機会が圧倒的に多いのが特徴です。製造業のように作業中は機械音で会話ができないということがなく、日常的に日本語を使うことで自然と語学力が向上します。介護分野で3年働いた外国人が日本語能力試験N2に合格するケースは珍しくありません。
資格取得でキャリアが大きく広がる。介護福祉士の国家資格を取得すれば在留資格「介護」に切り替えが可能で、在留期間の制限がなくなります。さらに介護福祉士としての経験を積めば、将来的にはチームリーダーや施設管理者への道も開けます。「資格を取って、自分の国にはない高齢者ケアの専門家になりたい」という志を持って来日する人材も増えています。
介護現場で最も多い課題は、やはり日本語です。特に利用者の方言や高齢者特有の言い回し(「おひや」「かわや」など)、認知症の利用者との意思疎通には苦労するケースが多く報告されています。
対処法:施設独自の「介護用語集」を作成し、よく使う方言や言い回しをリスト化している施設があります。また、入職後3か月間は日本人スタッフとペアで業務にあたる「バディ制度」を導入し、分からない表現をその場で確認できる体制を整えることが効果的です。
介護記録は正確な日本語での記述が求められるため、会話はできても記録が書けないという壁にぶつかる外国人スタッフは少なくありません。
対処法:介護記録のテンプレートを用意し、選択式で入力できるようにする、タブレット端末で音声入力を活用するなどの工夫が広がっています。最近ではAIを活用した記録支援ツールも登場しており、口頭で伝えた内容を自動で文章化するシステムを導入する施設も出てきています。
介護施設では夜勤が避けられません。外国人スタッフが夜勤に入る場合、緊急時の判断や利用者の急変対応を一人でこなせるかが大きな課題です。
対処法:入職後すぐに夜勤に入れるのではなく、段階的に慣れていくプログラムを組むことが重要です。まずは日勤で業務全体を覚え、次に夜勤帯に日本人スタッフと一緒に入り、最終的に独り立ちするという3段階のステップを設けている施設が多くあります。また、夜間でもオンコールで日本人管理者に相談できる体制を整えておくことで、本人の安心感につながります。
インドネシア出身のムスリムのスタッフについては、1日5回の礼拝時間やラマダン期間中の断食、ハラール食への対応が必要になります。
対処法:礼拝は1回5〜10分程度で、休憩時間と組み合わせることで業務に大きな支障なく対応できます。食事については、社員食堂がある場合はハラール対応メニューを用意するか、本人が持参する弁当を温められる環境を整えます。多くの施設では「最初は戸惑ったが、慣れてしまえば特別なことではない」という感想が大半です。
外国人スタッフの受入れは、既存の日本人スタッフにもさまざまな影響をもたらします。
業務の標準化が進む。外国人に教えるためには、暗黙知で行っていた業務を言語化・マニュアル化する必要があります。「なんとなくこうやっている」では伝わらないため、手順書を整備する動きが自然と生まれます。結果として、日本人スタッフの間でもケアの質にばらつきが減り、施設全体のサービス品質向上につながったという報告が多くあります。
職場に活気が生まれる。「外国人スタッフが一生懸命に勉強しながら働いている姿を見て、自分も頑張ろうと思った」という声は多くの施設で聞かれます。特に、利用者が外国人スタッフとの交流を楽しむようになり、レクリエーションの幅が広がる(母国の歌や遊びの紹介など)といった副次的な効果も生まれています。
一方で、受入れ初期の負担は確実にある。指導役を務める日本人スタッフには追加の負担がかかります。言葉の壁からくるストレスや、教えたことがうまく伝わらないもどかしさを感じる場面もあります。施設側は、指導役スタッフの業務量を調整したり、指導手当を支給したりするなど、日本人スタッフへのケアも忘れてはなりません。
介護分野には、他の分野にはない独自のルールや要件がいくつかあります。
日本語能力要件が高い(技能実習・育成就労):技能実習・育成就労では、対人サービスの特性上、就労開始時点(入国時)からA2相当(N4相当)以上の日本語能力が必須です。他の多くの技能実習・育成就労分野がA1(N5相当)で足りるのに対し、介護は利用者とのコミュニケーションが業務の根幹であるため、より高い日本語力が求められます。これは他の技能実習・育成就労分野にはない介護独自の要件です。
転籍制限期間:2年(2026年1月23日閣議決定)。介護分野は、習熟に時間を要する分野として、建設・工業製品製造業・造船・舶用工業・自動車整備とともに転籍制限期間が2年に設定されています。この期間は同一の受入れ機関で就労を継続する必要があります。なお、賃金未払い・ハラスメント等のやむを得ない事情がある場合は、制限期間に関わらず即時転籍が認められます。
介護技能評価試験:特定技能1号への移行時に必要となる試験です。介護の知識・技能に関する学科試験と実技試験で構成されます。育成就労から特定技能1号に移行するには、この試験への合格が必要です。
特定技能2号は対象外:前述のとおり、介護分野では特定技能2号が設けられていません。長期就労を希望する場合は、介護福祉士の国家資格を取得し、在留資格「介護」に切り替えるルートを目指すことになります。
人員配置基準への算入:外国人介護スタッフも、一定の条件を満たせば施設の人員配置基準に算入することが可能です。ただし、入職直後の一定期間は算入の制限がある場合があるため、事前に確認が必要です。
介護福祉士の国家試験:日本語で出題されるため、外国人にとっては高いハードルですが、EPA候補者向けの学習支援や、ふりがな付きの試験問題、試験時間の延長などの配慮措置も講じられています。育成就労・特定技能ルートで入国した外国人にも同様の支援が広がるかは、今後の制度整備次第です。
介護分野で外国人材の受入れを検討する場合、以下のステップで進めるのが一般的です。
受入れルートの選定:育成就労・特定技能・EPAなど、どの制度を活用するかを検討します。すでに特定技能の試験に合格している海外人材を採用する場合は特定技能1号での受入れも選択肢です。
監理支援機関(育成就労の場合)または登録支援機関(特定技能の場合)の選定:信頼できるパートナー機関を選ぶことが、受入れ成功の最大のカギです。介護分野の受入れ実績が豊富な機関を選びましょう。
施設内の受入れ体制の整備:指導担当者の選定、住居の手配、日本語学習の支援体制、夜勤シフトの設計など、受入れ前に準備すべきことは多岐にわたります。
日本人スタッフへの事前説明:外国人スタッフと一緒に働くことについて、既存の日本人スタッフに丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。不安や疑問に答える場を設けましょう。
入国後のサポート計画の策定:来日後の日本語教育、生活支援、メンタルヘルスケアなどの計画を事前に立てておくことで、早期離職を防ぎ、定着率を高めることができます。
介護は、人が人をケアする仕事です。だから受入れの成否も、結局は「来た人に続けてもらえるか」に尽きます。制度や手続きは入口にすぎません。最初の数か月、誰がどこまで教え、どう生活を支えるか——そこを決めてある施設は、人が辞めません。逆にそこが曖昧な施設は、どれだけ立派な制度を使っても定着しない。数々の現場を見てきた私たちが、いちばん確かだと言い切れるのは、そこです。
※本記事は2026年2月時点の公開情報に基づいて作成しています。在留者数データの出典は出入国在留管理庁(令和7年12月末/2025年12月末時点の公表資料)です。育成就労法は2027年4月1日に施行されます。分野ごとの具体的な運用方針等については、今後の政省令の整備により詳細が定まる場合があります。最新の情報は、出入国在留管理庁および厚生労働省の公式発表をご確認ください。
この分野で利用可能な在留資格のステップです