外国人材が辞める本当の理由
——在留資格別に見る離職の構造
「うちは待遇が良いから大丈夫」——そう思っていても離職が続く企業には、共通した見落としがあります。外国人材の離職は在留資格ごとに構造が異なります。給与・キャリア・生活支援・制度管理の4軸で原因を正確に把握することが、定着戦略の出発点です。
累計離職率
法務省 ISA 公表資料 001449565
モチベーションが低下した割合
共同調査(2021年)
離職意志を持った割合
「離職した」+「したかったができなかった」計
01 | 「辞めない=満足」は大きな誤解
特定技能1号の累計離職率22.4%(最新公表値)は、日本人新規学卒就職者の3年以内離職率(30%以上)と比べるとやや低い水準です。なお特定技能は技能実習と異なり正規の転職が認められているため、「離職」と「転職(同分野内移動)」を分けて捉える必要があります。この数字を見て「外国人材は定着している」と判断する経営者は少なくありません。しかし注目すべきは離職「後」の行き先と、在職中の心理状態です。
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31.4%帰国
日本を離れる -
30.3%特定技能で転職
国内に留まり他社へ -
21.5%他の在留資格へ変更
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16.8%その他
出典:出入国在留管理庁(2023) 集計期間:2019年4月〜2022年11月末
02 | 在留資格別に見る「辞める理由」の違い
離職の構造は在留資格によって大きく異なります。一律の「給与を上げれば解決する」という対策は機能しません。下の比較表で自社が雇用している在留資格の特性を把握してください。
| 在留資格 | 転職の自由 | 主な離職理由 | 企業が最初に打つべき手 |
|---|---|---|---|
| 育成就労 転籍自由化 |
同一分野内で1〜2年経過後に可(2027年施行予定)※建設・介護・工業製品製造業・自動車整備・造船舶用工業は2年、その他12分野は1年 | 給与が技能向上に追いつかない/キャリアの見通しがない/生活孤立 | 特定技能1号移行後の昇給設計を入社時から明示する |
| 特定技能1号 転職自由 |
同一分野内なら自由 | 2号移行サポートがない/他社と賃金比較して流出/日本語上達で選択肢が広がる | 2号へのキャリアパスと試験サポートを提示する |
| 技人国 転職自由 |
分野問わず自由 | 昇進が滞る/評価基準が不透明/外資や大手への転職誘惑 | 等級制度・昇進基準を書面で明示する |
| 留学生 卒業後切替 |
在資変更後は自由 | ビザ手続きサポートが不十分な会社を避ける/入社後の職場適応ミスマッチ | 変更申請スケジュールを企業主導で管理する |
育成就労から来た人材が辞める3つの構造
育成就労制度は「特定技能1号への移行を前提とした育成」を目的としています。しかし多くの中小企業では、育成就労期間中の待遇と、特定技能1号移行後の待遇設計が連続していません。本人は「試験に合格して資格が上がったのに給与が変わらない」と感じ、転籍を検討し始めます。
また生活面の孤立も深刻です。日本語でのコミュニケーション・医療・役所手続き——これらのサポートがない職場では、精神的な消耗から「母国に帰りたい」という気持ちが積み重なります。技能や意欲があっても孤立感が離職を促します。
特定技能1号が「スキルの移転制約」で損をするとき
内閣府の令和6年度経済財政白書(2024年)は、興味深い分析を示しています。同一企業で技能実習を修了し特定技能に移行した外国人は日本人との賃金格差が見られなかった一方、他社から転籍してきた特定技能外国人は賃金が低下する傾向があったというものです。
「技能実習2号及び3号を修了後、職場を変更せずに特定技能1号に移行した労働者に関しては日本人との賃金格差は確認されなかったものの、職場を変更して特定技能1号に移行した労働者に関しては、知識やスキルが評価されないという『スキルの移転制約』に直面し、日本人よりも賃金水準が低下する可能性が指摘されている」 内閣府 令和6年度年次経済財政報告(2024年)より
つまり「自社で育てた人材を手放すと、その人は一時的に評価が下がる」という事実を本人に伝え、長期雇用への動機として活用することが可能です。「ここを辞めたら損をする」ではなく、「ここで積み上げることが自分のキャリアになる」という感覚を持てる環境が重要です。
03 | モチベーションを下げる要因ランキング
参考調査の傾向として注目されるのは上位に「上司のマネジメント」が挙がることです。「外国人だから伝わらない」と諦めてしまう管理職、曖昧な指示を繰り返す上司、成果を認めない環境——こうした要因が定着を妨げる要因として多く挙げられます。給与改善と並行して、現場の管理職教育を見直すことが有効とされています。
04 | 「辞める前のサイン」を見逃さない
離職は突然起きません。多くのケースで、その前に行動の変化が見られます。現場の管理職・担当者が以下のサインに早期に気づくことが、面談介入のタイミングを逃さないための鍵です。
- サインを確認してから1週間以内に1対1の面談を設定する(放置すると手遅れになることが多い)
- 面談には通訳か多言語シートを用意し、「仕事・給与・生活・将来」の4軸で聞く
- 不満の内容を記録し、2週間以内に具体的な改善案を本人に伝える
- 改善できない内容については「なぜできないか」を正直に説明する(不誠実な約束は逆効果)
- 面談内容は人事記録として保管し、次の担当者に引き継げるようにする
05 | 企業規模別の優先課題
| 企業規模 | 最も多い離職パターン | 優先して取り組むべきこと |
|---|---|---|
| 10人未満 | 孤立・生活サポート不足からの離職 担当者が一人で抱え込む |
監理支援機関との連携強化。生活相談の外部窓口を明示する |
| 10〜50人 | 給与据え置きによる他社流出 昇格の仕組みがない |
在留資格変更タイミングでの給与見直しルールを作る |
| 50〜300人 | 管理職との摩擦 評価基準の不透明さ |
多文化マネジメント研修の実施。等級制度の整備 |
| 300人以上 | 社内の横断的サポート不足 部署間の情報共有がない |
外国人材専任担当者の設置。社内横断の情報共有体制 |
この記事のポイント
外国人材の離職は「1つの原因」で起きません。在留資格・企業規模・業種ごとに構造が違います。定着戦略は「給与を上げる」という単純な解決策ではなく、4つの軸での分析から始まります。
- 特定技能の離職後30%が国内他社へ——「帰国」ではなく「転職」が主流化している
- 参考調査では「上司のマネジメント」がモチベーション低下要因の上位に挙がることが多い——管理職教育の見直しが有効とされる(民間調査・実務傾向)
- サインに気づいてから1週間以内の面談介入が、離職防止の黄金ルール
- 自社で育てた人材が最もスキルを評価される——転籍よりも定着が双方にとって合理的
本記事は2026年2月時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細は出入国在留管理庁の最新情報をご確認ください。