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「育成就労制度では転籍ができるらしいけど、それって何?うちの会社にはどんな影響があるの?」——技能実習では原則認められなかった転籍が、育成就労では本人の意思で可能になる。受入れ側の前提が根本から変わる論点だ。本記事では、育成就労制度で導入される転籍の仕組みについて、法的根拠や手続きの流れを含め、技能実習制度との違いを交えながらわかりやすく解説します。
「転籍」とは、外国人労働者が現在の受入れ企業から別の受入れ企業へ移ることを指します。法令上の正式名称は**「育成就労実施者の変更」**であり、「転籍」は通称として広く使われている表現です。一般的な転職と似た概念ですが、育成就労制度においては一定のルールのもとで行われる制度上の仕組みとして位置づけられています。
従来の技能実習制度では、「国際貢献としての技術移転」が建前だったため、実習先の変更(転籍)は原則として認められていませんでした。実習生は、来日前に決まった受入れ先で最長5年間働くことが前提とされていたのです。
しかし、この仕組みが「辞めたくても辞められない」状況を生み、労働環境に問題があっても声を上げにくいといった課題が指摘されてきました。
こうした背景を踏まえ、2024年6月に成立した育成就労法では、外国人労働者本人の意思による受入れ先の変更、すなわち転籍が一定の条件のもとで認められることになりました。この制度は2027年4月1日(令和9年4月1日)に施行されます。育成就労制度の目的が「人材育成と人材確保」に改められたことで、外国人労働者を「育てながら、適切な環境で働いてもらう」という考え方が制度の軸になっています。
なお、転籍に関する法的根拠として、育成就労外国人による育成就労実施者の変更の希望の申出については法第8条の2に、転籍時の認定基準については法第9条の2にそれぞれ規定されています。
技能実習制度では、実習先の変更が認められるのは非常に限定的なケースに限られていました。具体的には、受入れ企業の倒産や法令違反、実習生に対する暴行・ハラスメントなど、「やむを得ない事情」がある場合のみです。実習生が「もっと条件の良い職場で働きたい」と思っても、制度上それは認められない仕組みでした。
この点は長年にわたって問題視されてきました。実習先を選べないことが、不当な労働条件の温床になりかねないとの指摘があったためです。
育成就労制度では、この点が大きく変わります。外国人労働者が一定の要件を満たせば、本人の意思で別の受入れ企業に移ることが制度として認められます。以下に主な違いをまとめます。
| 項目 | 技能実習制度(廃止予定) | 育成就労制度(新設) |
|---|---|---|
| 転籍の可否 | 原則不可(やむを得ない場合のみ) | 一定条件のもとで可能 |
| 本人意思による転籍 | 認められない | 要件を満たせば可能 |
| 転籍の範囲 | ― | 同一の業務区分内 |
| 制度の趣旨 | 技術移転(実習先の固定が前提) | 人材育成・確保(適切な環境での就労を重視) |
| 法的根拠 | ― | 法第8条の2(変更の申出)、法第9条の2(認定基準) |
このように、転籍の取り扱いは技能実習制度と育成就労制度の最大の違いの一つといえます。
育成就労制度における転籍は、大きく2つのパターンに分かれます。
1つ目は、受入れ企業側に問題がある場合の転籍です。法第19条では、育成就労の実施が困難になった場合の届出等について規定されており、以下のようなケースが該当します。
この場合は、就労期間や試験合格の有無にかかわらず、転籍が認められます。これは技能実習制度でも存在していた仕組みを引き継ぐものといえます。やむを得ない事情がある場合は、転籍制限期間中であっても外国人労働者の保護が優先されるという点が重要です。
2つ目が、育成就労制度で新たに導入される「本人の意思」による転籍(育成就労実施者の変更の希望の申出)です。法第8条の2に基づき、外国人労働者が「別の企業で働きたい」と考えた場合に、一定の要件を満たすことで転籍できる仕組みです。
ただし、無条件に転籍できるわけではありません。分野別運用方針(法第7条の2)で定める転籍制限期間が設けられており、入国後すぐに転籍することはできない仕組みとなっています。これは、受入れ企業が育成にかけた時間やコストへの配慮と、育成の実効性を確保するためとされています。
法第9条の2では、本人の意思による転籍(育成就労実施者の変更)の認定基準が定められています。2026年2月時点で公表されている情報をもとに、主な要件を整理します。
転籍先は、現在従事している業務と同一の業務区分内に限られます。たとえば、建設分野で働いている外国人が、まったく異なる飲食料品製造分野の企業に転籍することは、原則として認められていません。
転籍が可能になるまでには、同一の受入れ企業での一定期間の就労実績が求められます。この転籍制限期間は、1年以上2年以下の範囲内で分野別運用方針が定めます。2026年1月23日の閣議決定で、12分野が1年・5分野(建設・工業製品製造業・造船・舶用工業・自動車整備・介護)が2年と確定しています。
ここで重要なポイントがあります。転籍制限期間が1年を超える分野であっても、育成就労実施者(受入れ企業)の判断で転籍制限期間を1年に短縮することが可能です。たとえば、ある分野の転籍制限期間が2年と定められていても、企業が自主的に「1年経過後から転籍を認める」と設定することができます。
また、1年を超える転籍制限期間を設定する場合には、待遇の向上(昇給等)が義務付けられます。つまり、転籍制限期間を長く設定する企業には、その分だけ外国人労働者の処遇を改善する責任が生じるということです。この仕組みは、転籍制限期間が長いことによる外国人労働者の不利益を補うためのものとされています。
転籍にあたっては、分野別運用方針で定める技能試験に合格していることが要件とされています。一定水準の技能を身につけていることを客観的に証明する必要があります。
日本語能力についても要件が設けられています。まず、育成就労制度への入国時の日本語要件はA1相当以上(日本語教育の参照枠に基づく。A1は日本語能力試験N5に相当)とされています。
転籍時の日本語要件については、分野別運用方針で定める日本語能力試験に合格していることが求められます。具体的な水準は分野ごとに異なりますので、該当分野の運用方針を確認する必要があります。
本人の意思による転籍(育成就労実施者の変更)がどのように進むのか、手続きの流れを整理します。
外国人労働者本人が、転籍(育成就労実施者の変更)を希望する旨を申し出ます(法第8条の2)。申出先は、現在の監理支援機関となります。
監理支援機関は、転籍の申出を受けて、外国人育成就労機構に連絡します。機構は転籍支援やマッチングの役割を担うとされています。
外国人育成就労機構や監理支援機関を通じて、転籍先となる受入れ企業の選定・マッチングが行われます。同一の業務区分内で、受入れ枠に余裕のある企業が候補となります。
転籍先の企業は、新たな育成就労計画を作成し、法第9条に基づく認定を申請します。この計画は、転籍時の認定基準(法第9条の2)を満たす必要があります。
新しい育成就労計画が認定された後、外国人労働者は転籍先の企業での就労を開始します。在留資格に関する届出等も併せて行います。
転籍が行われた場合、元の受入れ企業が負担した初期費用(渡航費、入国前・入国後講習費、健康診断費用など)について、転籍先の企業が一定の費用を按分して負担する仕組みが設けられています。
これは、受入れ企業が「育てた人材が出ていくだけで費用が丸損になる」という不公平を軽減するための措置です。費用按分の対象となる費用の範囲や計算方法の詳細については、運用要領等に基づいて定められています。
受入れ企業としては、初期費用に関する領収書や支出の記録を普段から整理しておくと、転籍が発生した場合の精算がスムーズに進みます。
なお、この費用按分はあくまで企業間で行われるものであり、外国人労働者本人に対して費用負担を求めることは認められていません。
育成就労制度では、外国人労働者の権利を保護するため、法第46条から第48条において禁止行為が明確に定められています。違反した場合には罰則が科される可能性がありますので、十分に注意してください。
外国人のパスポートや在留カードを企業が預かる行為は禁止されています。転籍を防ぐ目的はもちろん、善意による預かりであっても違法となる可能性があります。
「転籍するなら違約金を払え」「研修費用を全額返せ」といった金銭の請求は禁止されています。前述の費用按分の仕組みとは別に、外国人本人に対して費用負担を求めることは認められません。
「転籍したら帰国させる」「ビザを取り消してやる」といった脅迫的な言動は、法令違反となるだけでなく、刑事罰の対象にもなり得ます。
要件を満たした転籍を不当に遅延させる、必要な書類を出さない、といった行為も禁止行為に該当する可能性があります。
転籍の制度化は、外国人労働者の権利保護という面で意義がある一方、受入れ企業にとっては人材の流出リスクという新たな課題をもたらします。受入れ企業の備え方を、人材流出リスクと定着策の二面から整理する。
これまでの技能実習制度では、実習生が他社に移ることは原則なかったため、一度受け入れれば期間中は在籍してもらえるという前提がありました。育成就労制度では、制限期間を過ぎれば転籍の可能性が生じるため、企業は「選ばれる職場」であることが求められるようになります。
転籍は、あくまで外国人労働者にとっての選択肢が増えるということです。働きやすい環境を整えている企業ほど、転籍される確率は下がる。具体的には次の取り組みが効く。
転籍が制度として組み込まれた以上、「転籍されないようにする」という守りの姿勢だけでなく、「もし転籍が発生しても事業に大きな影響が出ないようにする」という観点も大切です。複数の外国人労働者を段階的に受け入れる、業務のマニュアル化を進めるなど、特定の個人に依存しない体制づくりも検討に値します。
また、転籍制度は、他社で育成された人材を自社に迎え入れるチャンスにもなり得ます。自社の魅力を発信し、転籍を希望する外国人労働者から「選ばれる企業」になる。これも一つの人材戦略だ。
※本記事は2026年2月時点の公開情報に基づいて作成しています。育成就労制度は2027年4月1日に施行されます。制度の運用に関する詳細は、分野別運用方針や運用要領等の整備状況により変更される場合があります。最新の情報は出入国在留管理庁の公式発表をご確認ください。